チェニーチェニー副大統領の場合は、さらに大がかりだ。アメリカの歴史上、副大統領が彼ほど大きな 権力を握ったことは、フォード政権のネルソン・ロックフェラー以来のことである。ホワイトハ ウスを実質的に完全支配してきたその人物に疑惑が持ち上がった。テキサス州ダラスにある全米最大の石油サービス会社ハリバートンは、オクラホマやテキサスで巨大油田が続々と発見された二十世紀初めに設立されて以来、メロン財閥のガルフ石油や、ウィンスロップ・ロックフェラーが重役をつとめたハンブル石油などが株主となって、油田関連の総合的エンジニアリングや建設、サービスの大手として君臨してきた。子会社のケロッグ・ブラウン・ルート (現KBR)も広範な事業を手がけている。サウジアラビアをはじめとする中東の原油採掘に深-関与する同社は、湾岸戦争時代の国防長官としてサウジ王室と親交したチェニーを九五年に″石油外交官″として重役室に迎え、ただちに会長・CEOに祭り上げた。そのCEO時代の九八年、バリバートンの 監査を担当していた会計事務所アーサー・アンダーセンのパートナー(準経営者) のテリー・ハ チェットが、バリバートンの利益を大きく見せる水増し会計をおこなっていたことが二〇〇二年 五月に発覚して、SECが調査に入ったのである。ハチェットはその後ダラスを去り、アジア担 当として東京赴任後もバリバートンの会計に関与するほど入れ知恵をしてきた。しかもアーサ ー・アンダーセンで彼の同僚パートナーだったデヴィッド・リーザーは、その当時バリバートン に転籍してチェニーに次ぐナンバー2となって両者の仲を取り持った。二〇〇〇年に、チェニー が大統領選の副大統領候補として出馬するため退任すると、リーザーがバリバートンの会長・社長・CEOに就作しているのだ。利益の水増しと交換条件に全米最大の石油サービス会社を支配するのだから、アメリカの会計士の権力の大きさは想像以上で、これはひどい物語である。 チェニーが水増しに関与した証拠はないが、彼がCEOとしての会計責任についてメディアからコメントを求められ、返答しなかったため疑惑はふくらむ一方だ。 サミュエルソンに批判されたこれら正副大統領がウォール街を浄化できないことは、アメリカ 国民が重々承知していた。ではサミュエルソンの評論は正しいのか。彼自身は批判する側に回っているが彼はひと言もクリントン政権を批判していない。むしろクリントン時代にSEC委員 長アーサー・レヴイットが、会計事務所の制度改善を提案しながら、それがロビー活動によって つぶされたことを強調し、クリントン政権は頑張ったかのような印象を与える。そこに詐欺師的 な経済学者の特徴がある。レヴイットが努力したのは有名な話だが、会計事務所が企業と馴れ合いにならないためにシステムを変えるべき必要性は、それよりはるか前の七〇年代から指摘されていたことであり、レヴイットが最初ではない。 アーサー・アンダーセンの会長にハーヴェイ・カプニックが就任したのは一九七〇年で、彼が 業務を監査以外に広げたため、顧客に知恵をつけるコンサルティングと、顧客の帳簿を厳しく調 べなければならない監査の利害が対立するという問題が社内に発生し、カブニックは苦肉の策でコンサルティング部門の独立を提案したが、七九年十月には退陣に追い込まれた。まだ八大会計事務所が支配するビッグ・エイトと呼ばれたカーター政権時代である。その時代に八大会計事務所が一斉にコンサルティング業務に大きく進出して、企業利益を優先する体質に変貌しながら、歴代のSEC委員長が放置したので、エンロンのような事態を招いた。レヴイットに改善を強く 求められたクリントン政権がそのシステムを実現しないなら、誰が国の正義を実現するのであろ うか。その責任は、ウォール街の経済政策に最大の影響力を持っていた正副財務長官にあったはずだ。のちに述べるが、レーガン政権時代のSEC委員長ジョン・シャドと古くからビジネスを 共にしてきたのが、ルービンである。 グラス・スティーガル法を台無しにした財務副長官ローレンス・サマーズの伯父がノーベル経 済学賞受賞者ポール・サミュエルソンである。ローレンスの父ロバート・サマーズは、改姓する 前の姓をサミュエルソンといい、ポール・サミュエルソンの弟である。財務副長官の母アニタ・ アローもエコノミストとして知られ、アニタの兄ケネス・アローもノーベル経済学賞の受賞者だ。 しかしこの賞は、ダイナマイト王アルフレッド・ノーベルの兄弟の曾孫四人が二〇〇一年十一月 のノーベル賞百年記念行事を前に、経済学賞はノーベル賞の名に値しない。経済学賞などはア ・ルフレッド・ノーベルの遺書に明記されていない。人類に多大な貢献をした人物に贈るという趣 旨にもそぐわないと表明した通り、スウェーデン中央銀行が一九六九年から勝手に授与をスタ ートした制度である。ノーベル経済学賞の理論によって人類が幸せになったなどという話は、一 度も耳にしたことがない。 サミユェルソンの甥にあたる財務副長官サマーズは、史上最年少でバーヴァード大学教授となり、世界銀行のチーフエコノミストを経て、一九九三年に財務次官となり、クリントン政権のベ ンツェン財務長官のもとで国際問題を担当した。テキサスの医療問題で活躍するベンツェン一家 のよい物語をさきほど紹介したが、一方でベンツェンは上院で税制と世界貿易を支配する財政委員長としてウォール街のバンカーを動かしてきた人物で、億万長者の保険業者としてのキャリアを縦横に活かし、ガットのウルグアイ・ラウンド以来、日本攻撃に終始した。彼の息子ラン・ベ ンツェンは投資信託会社を経営して不動産投資で莫大な損害を出し、九三年に五四〇〇万ドルの損害賠償の支払いを命ぜられたが、それ以前の七年間にも同様に一億六三〇〇万ドルを支払った前歴で有名だ。 サミュエルソン理論の研究者であるバーヴァード大学経済学者ロバート・マートンもノーベル 経済学賞を受賞したが、このマートンが巨大ヘッジファンドのロングターム.キャピタル・マネ ージメント(LTCM) の経営幹部となり、同社が九八年に破産して、ウォール街と投資家に空 前の損害を与えた。同じくノーベル経済学賞受賞者マイロン・ショールズもその経営に参加して いた。LTCM破綻額は報道により異なるが、″フォーブス″によれば、彼らは投資家から集め た四八億ドルの資本を元手に、それを担保に金融機関からそれよりはるかに高額の金を借り、そ れで株券と債券を購入した額が一六〇〇億ドルに達した。さらにこのほかデリバティブなどの投 機的な金融契約が見掛け上は一兆ドルとなり、合わせて一兆一六〇〇億ドル (同年のレートで一五〇兆円) という天文学的な数字に達した。実に、元手四八億ドルの二四〇倍という危険な金融ゲームである。これが、ロシア金融危機に端を発した連鎖的な損失で破綻し、大手金融機関の損害だけで八〇億ドル 二兆円) という被害をもたらした。 創業者で経営者のジョン・メリウェザーはソロモン・ブラザース副会長だった人物で、同僚幹 部のデヴィッド・マリンズは、八九年に株価暴落に関する大統領調査特別委員会の事務局次長をつとめ、九〇~九四年に連邦準備制度理事会副議長 (中央銀行副総裁) である。グリーンスパンの右腕だった男だ。この金融犯罪者集団を、ホワイトハウスをあげて救済したのが、ロバート・ルービンとローレンス・サマーズの正副財務長官だったことを、世界中は見ていた。ルービンの出身会社ゴールドマン・サックスをはじめ、メリル・リンチ、J・P・モルガン、チェース・マンハッタン銀行、モルガン・スタンレー、トラヴェラーズ、スイス・ユナイテッド銀行UBSなど一四社をあげてシンジケーシヨンが組まれ、総額三六億ドル (四六八〇億円) を投じて救済し たのである。なぜ救済したかと言えば、これら金融機関がヘッジファンドを煽った張本人、つま り責任者であり、責任を感じてメリウェザーに投資した財閥たちへのギフトにしたのだが、その 元手は一般投資家の資産である。本来救済されるべき性格の破綻ではなく、これは詐欺集団だ。 サマーズは二〇〇一年七月からバーヴアード大学総長となったので、二〇〇二年にウォール街を襲った腐敗の原因などにっいて学生に訓示を垂れているはずだ。ブッシュはひどい大統領だ、と。 広瀬 隆 「世界金融戦争」より
by xsightx
| 2006-01-09 12:21
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